【藤井聡】医療改革法が成立

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先日、医療改革法が成立し、「保険を使える治療と使えない治療(自由診療)の併用(混合診療)を16年度から拡大する。」こととなりました。
http://mainichi.jp/select/news/20150527k0000e010199000c.html※1

この「混合診療」というものをご存知でしょうか?この問題は、「新自由主義・全体主義」に関わる論戦における、最重要項目の一つです。ついては、今日は、この点について簡単に解説したいとおもいます。


これは病院に行ったときの治療の話です.現状では、基本的に、「保険のきかない診療」は基本的に認められていませんので,どんな診療を受けても,保険がきいて,病院代は安くつきます.

しかし,「混合診療」というのが一部認められると,

  「保険のきかない診療」(=政府から認可されていない診療)

も一部みとめられます.つまり,そうなると,「保険のきく診療」と「保険のきかない診療」とを同時に,混ぜこぜで受けることができるようになります.混ぜこぜなので「混合診療」と言われています.

これは,医療制度における典型的な医療制度の自由化方針ですが,これが起こるとどうなるか,簡単に説明します.

(1)患者は受けられる診療の選択肢の幅が増える.
 (→これが,自由化のメリットだと喧伝されています。)

(2)ただし,「保険のきかない診療」については、患者は、全額自己負担する必要がでてくる.結果,おカネの無い人は,「保険のきかない診療」が実質,受けられなくなっていく可能性がでてくる。
 (→これが,国民皆保険の崩壊につながると言われています)

(3)「保険のきかない診療」については、政府は保険料も払わなくて済むので、政府支出の削減が可能となる,という側面があります。
 (→このため、混合診療は財政再建にメリットありと認識される事がありますので、それを目指す「勢力」は、混合診療を要求することがあります)

(4)「保険会社」が,「保険のきかない診療のための、専用の保険商品」を売り始める(→つまり,新しい保険マーケットができる.その医療が良ければ,もちろん,そのマーケットは拡大していく。このため、保険業界は、混合診療を要求することがあります。)

(5)「製薬会社」は,現状では、「政府から認可されないと薬を売れない」ので、「新しい薬ができれば、政府から認可されるために、お金をかけて認可されるように研究投資をして、よい薬にしあげていく。そしてよい製品になれば、政府も認可して、はれて、安い価格で、大量に売りさばき始めることができる」ということになっています。ところが、「混合診療」が認められれば、「保険のきかない薬品」つまり「政府から認可されていない薬品」でも,自由に売ることができるようになる。したがって、薬品会社は、新しい薬ができても、「政府からの認可」のために努力することがなくなっていく。結果、混合診療が認められると、政府から認可されないままで放置される薬品=保険のきかない、一般の高所得者以外の人々には手がだせない薬品の割合が、増えていく。
(→結果、国民皆保険の崩壊が、加速化すると言われています。一方、薬品会社は、認可などうけなくても自由に薬を売ることができるので、薬品会社は混合医療を要求することがあります)

・・・

少々長くなりましたが、混合医療というのは、一見「自由」になるので、いいように見えるのですが、よくよく考えると、その「自由」によって得をするのは、

・保険会社 (新しい保険マーケットで商売を始めることができる)
・薬品会社 (自由に高い薬を売る商売を始めることができる)
・政府支出を抑えたい勢力 (政府が負担していた保険料を、利用者に負担させることに成功する)

の三者です。そして、一般の国民は、

  「高い薬品・診療を、
   政府からの補助(保険)なしに受けさせられるようになっていく」

事を通して、大いに「損」をしていくことになります。そして、それだけのお金を払えない人々(中低所得者)は、その診療自体が受けられなくなっていく危機=国民皆保険の崩壊の危機に直面する訳です。

もちろん、この点については、今回の国会でも政府(唐澤剛参考人)から、次のように説明されています。

「これを緩めてしまいますと本当に日本の医療制度壊れてしまいますので、これだけは絶対守らなきゃいけない、私どもはそう考えております。」
http://blogos.com/article/113375/

つまり、政府は、混合診療を本当に(アメリカのように)自由に認めてしまうと、国民皆保険が崩壊するということを十二分に承知した上で、今回の法改正が行っている、という次第です。だからこそ、政府からの答弁では

「もちろんこれは混合診療の全面解禁のようなものに道を開くものではございません。」

ともおっしゃっているわけです。つまり、今回の混合診療に向けての自由化は、限定的なものだ、という認識で進められている、という次第ですね。

この政府答弁通りに、医療改正法が混合診療のメリットだけを発現させ、デメリットが発言させない形で運用されることを、心から祈念いたします。

ただし、ここで重要なのは、「混合診療」というものには、政府自身も認識している様に、「国民皆保険の崩壊」というリスクがある、ということです。国民の皆様には、是非とも、こうした一般的な認識を、十分にお持ちいただきたいと思います。なぜなら、そういう「国民意識」こそが、「混合診療のリスクを最小化」させる重要な要因(というか最後の堤防・砦!)となるからです。

(※ 例えば大阪・関西の特区では、この混合診療が今年度から一部先行的に実施されますが 
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO77489840V20C14A9LDA000/※2 その動向については,注視が重要だと考えます)

・・・・

ところでこの話、「都構想」という一見、ヨサソウに聞こえるものが、よくよく調べると、トンデモないものだった、という話と、似ていますよね。なんといっても「混合診療」にすると、自由化され、選択の幅が広がって、なんだかヨサソウな事が起こりそうなニュアンスが醸し出されるからです。

だから「都構想」の顛末と同様、国民の皆様におかれましては、是非ともイメージでなく、事実に基づく適正な問題認識をもっていくことが、何よりも大切だと思います。

以上、少々長めの解説となりましたが、ご紹介まで。


※1
医療改革法:参院可決、成立 国保運営を都道府県移管など
毎日新聞 2015年05月27日
◇患者の負担増 入院時の食事代、18年度に1食460円に
国民健康保険(国保)の運営を市町村から都道府県に移すことなどを柱とする医療保険制度改革関連法案は27日午前、参院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立した。2018年4月1日までに段階的に施行される。

 定年退職者らが加入する国保は高齢者が多く医療費がかかり、構造的な赤字体質にある。赤字解消のため3400億円の税金を投入する一方、都道府県に移すことで国保の財政基盤を強化する。市町村は都道府県がモデル的に示す「標準保険料率」を参考に実際の保険料率を決め、徴収業務を行う。18年度から移行する。

 患者の負担増では、入院時の食事代自己負担(現在1食260円)を段階的に引き上げ、18年度に1食460円にする。低所得者は対象から外す。開業医の紹介状なしで大病院などの外来を受診すると、16年度からは通常の自己負担とは別に5000円以上かかる。

 また、保険を使える治療と使えない治療(自由診療)の併用(混合診療)を16年度から拡大する。保険の使えない治療でも患者の申し出があれば、これまでより早く安全性や有効性を審査して併用を認める「患者申し出療養」制度を設ける。

※2
関西の戦略特区、混合診療は来年にも実施
2014/9日経
政府は24日開いた関西圏の国家戦略特区の区域会議で規制緩和を認める事業計画の第1弾を決めた。大阪大学医学部付属病院(大阪府吹田市)などで日本では原則認められない症例への混合診療が2015年にも実施される見通しになった。神戸市で始まったiPS細胞を活用した目の難病治療も本格化しそうで、「医療特区」に向けた動きが大きく前進する。

 混合診療は保険診療と保険が利かない自由診療を併用できるようにすること。患者の不平等や不当な負担拡大を招くなどの理由から日本では原則実施できず、先進医療の普及を阻む「岩盤規制」とされる。

 阪大病院のほか国立循環器病研究センター(吹田市)や京都大学医学部付属病院(京都市)は先進医療で混合診療を提案していた。欧米など先進5カ国で承認されながら日本で未承認の医薬品や医療機器を、混合診療を活用して迅速に提供できる道が今回開かれた。

 循環器病研究センターは国内で認められていない米国製の手術支援ロボット「ダビンチ」を使った心臓手術、電気刺激を与えて不整脈を治療するため皮膚下に線を入れる特殊な除細動器の利用を例に挙げた。

 同センターは不整脈薬を日本で適用外のがんの転移を防ぐために使うことも提案。三石博之企画戦略局長は「年内に結論を出すと回答が出され、実現すれば波及効果は大きい」と期待する。

 阪大病院は卵巣がんの増殖を防ぐ治療薬などの活用、京大病院は咽喉頭がんに対するロボット支援手術などを目指す。いずれも計画を首相が認定後、3病院が厚生労働省に申請する。申請から審査終了までの期間が現在の6カ月から半分に短縮される見込みだ。

 「関西が医療で日本をリードできる。自社の創薬研究も進めたい」(小野薬品工業)など関西地盤の製薬各社も事業機会の拡大につながることに期待を示した。

 神戸市では17年度にも開く眼科病院「神戸アイセンター」で病床の規制緩和により30床の設置が認められた。12日に世界初の移植手術が実施されたばかりのiPS細胞を使った目の治療技術を幅広い患者に提供する。

 提案した公益財団法人先端医療振興財団(神戸市)は「神戸で世界最高の医療をいち早く実用化できるよう、市や(治療主体の)理化学研究所と引き続き緊密に連携していく」と話した。

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