【藤井聡】激論の末の「骨太」、首相本音は成長優先 財政再建失敗リスクも 記事紹介

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経済財政政策に関する「攻防」についての、大変興味深い記事です。

安倍首相は「基礎的財政収支の黒字化へのスピードをただ単に上げていこうとした結果、成長が止まってマイナス成長になれば、むしろ債務残高とGDPとの関係においては、悪化していくことになる」と発言していた。

―――まさにおっしゃる通りです。


〔インサイト〕激論の末の「骨太」、首相本音は成長優先 財政再建失敗リスクも
2015年 07月 3日

[東京 3日 ロイター] - 激しい攻防が水面下で展開された安倍晋三政権の財政再建への指針「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」。財務省と内閣府の対立が表面化したが、「第三者」による瀬戸際の仲裁で異例の決着をみた。ただ、安倍首相の本音は「成長優先」にあり、外的な経済ショックで成長がとん挫すれば、財政再建が失敗するリスクも内包する。安倍首相のリーダーシップが問われる局面が、いずれやって来る。


<首相の投げた一石>


6月19日午後、首相官邸の執務室は重苦しい雰囲気に包まれた。「調整がまだ、ついていません」──。財務省幹部が安倍首相に提示した資料には、もとの原稿に訂正線を入れて上書きする「見え消し」の箇所がいくつも残っていた。


財政再建の道筋を明記する「骨太の方針」は、3日後の22日の経済財政諮問会議で最終案が提示される予定だったが、期限通りの取りまとめは、ほぼ絶望的にみえた。歳出をめぐる財務省と内閣府の事務方レベルの調整が、暗礁に乗り上げかけていたからだ。


その日、麻生太郎・副総理兼財務金融担当相と甘利明・経済財政担当相に順次、会っていた安倍晋三首相が投げかけた一石が、関係者の予想を超えて波紋を広げることになった。「とにかく(22日の)諮問会議までに、よく調整するように」と、それぞれの会合で指示を出した。


<第三者の調整案>


複数の政府・与党筋によると、財務省でも内閣府でもない官邸に太いパイプを持つ政府関係者が「見るに見かねて」両者の間に入り、双方が合意できるギリギリの調整案を作成したという。

この調整案を手に甘利経財相が政府内の枢要な関係者と連絡を取り、精力的に調整を進めたという。

官邸での会議からわずか1日後の20日、骨太方針の政府原案が出来上がった。


その内容は、歳出に目安を新設し、過去3年間の実績を脚注に明示する一方、2018年度の歳出の上限は示さず、内閣府がこだわった「経済・物価動向等を踏まえ」という文言も盛り込まれる構成だった。

ある経済官庁幹部が語った「美しい着地点だった」との表現は、関係者全員の顔を立てたという「霞が関文学」と言える。


<首相周辺、歳出に縛りかけず>


だが、安倍首相とその周辺は、今回の骨太方針の決着について、ある政治的な意味を見出している。首相周辺の関係者の1人は、目安の1.6兆円について「よく読めばわかる。1.6兆円などはあくまで脚注になっていて、本文に入っていない。それがポイント。何も縛らないようになっている」と言い切った。


首相に近い政府関係者は、19日の段階で「安倍首相から、将来の歳出ペースに縛りをかけるなと言われた。骨太の表現は、その首相の意向に沿っている」と述べた。

さらにその関係者は「成長に伴う歳出に縛りをかけると、かえって成長を抑制することになるというのが、首相官邸の意向だ」と語る。


実際、14年12月下旬の経済財政諮問会議で、安倍首相は「基礎的財政収支の黒字化へのスピードをただ単に上げていこうとした結果、成長が止まってマイナス成長になれば、むしろ債務残高とGDPとの関係においては、悪化していくことになる」と発言していた。


<二階ペーパーの波紋>


歳出規模が税収の2倍にも膨れ上がっている国は、主要7カ国(G7)で日本しかない。国際通貨基金(IMF)への返済が遅滞し、事実上のデフォルト状態に陥っているギリシャでさえ、単年度の歳出と歳入の規模は均衡状態にある。   だが、政府・与党内には、経済は生き物であり、単年度の歳出と歳入を単純にバランスさせる考え方は、逆に財政再建を遠ざけるという考え方を支持する声が多かった。   

今年1月、「基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)目標は、債務対GDP比(名目)を悪化させている」と題した藤井聡・京大教授の資料に、自民党の二階俊博総務会長は思わず、うなった。全10ページにおよぶ資料は「自由民主党政務調査会・国土強靭化総合調査会会長、二階俊博」と記名が変わり、名実ともに「二階ペーパー」となった。



波紋は早速、政府部内に広がる。「官邸に近い二階さんがそういうなら、総理は、本当はPB目標なんて入れたくないのではないか」、「解散宣言でのスピーチをよくよく聞けば、財政健全化目標の堅持と声高に言うものの、PB黒字化の堅持とは言っていない」との声が漏れ始めた。


2月12日の経済財政諮問会議に提出した民間議員のペーパでは、「黒字化」の3文字が消え、昨年までPB黒字化の後に活用するとされていた「債務残高GDP比の安定的に引き下げ」の目標が、「また」という接続で並列的な存在に格上げされた。

さすがに「黒字化」が消えてしまったことに対しては、首相の周辺からも「昨年11月の消費税引き上げ延期の際の首相の公約を反古(ほご)にしかねない」との批判が出て、5月12日の骨太の論点整理の際に復活した。


<稲田政調会長の台頭>


この間、政府・与党内で存在感を着々と増してきた幹部がいた。自民党の稲田朋美政調会長だ。

6月9日、自民党特命委員会に、諮問会議民間議員の高橋進・日本総研理事長を呼びつけると、こう迫った。「歳出の目安を設けないというのは、安倍政権の過去3年の取り組みを否定してのことか」。一気呵成(かせい)にたたみかけると、高橋氏は「そこに異論はない」と答えた。


安倍政権は、過去3年に社会保障費の増加分を1.5兆円程度に抑えており、提言には、これまでの取り組みを継続するとの表現を盛り込む方向で調整が進んでいた。

高橋氏が改革の継続を追認したことで、特命委は勢いを増す。歳出の目安が明記された提言は、自民党総務会で了承され、党の「お墨付き」を得た。歳出目標を骨太の方針に明記する可能性が、その段階では高まったようにみえた。


だが、最終的な決着は、1.6兆円は目安となって、脚注に書き込まれるということになった。先の首相周辺の関係者は「やはり成長を前面に出すかたちになった。安倍首相、菅官房長官、甘利経財相の思いがあるのだろう。稲田政調会長もその点は理解されているだろう」と解説する。


<諮問会議弱体化の声>


しかし、今回の骨太の方針では、高い経済成長による税収増に「賭け」、将来の財政危機リスクが高まりかねないとの批判もある。その原因は、経済財政諮問会議の弱体化にあるとみているのが、財政問題に詳しい明治大学の田中秀明教授だ。

「財政再建をめぐる安倍首相の本気度が伝わらず、諮問会議ではおざなりの議論しかできなかった。財務省と内閣府も、幹部は事実上、官邸に人事を握られており、どうしても『政治迎合的』になってしまう。これでは諮問会議の弱体化もやむを得ない」と語る。


日本の財政再建の道のりを振り返ると、財政最優先を掲げる官僚や学者からは、「失敗の連続」という評価が出ている。

1997年に消費税率を5%に引き上げた橋本龍太郎政権は、財政構造改革法で赤字国債からの脱却を図ったが、凍結を余儀なくされた。

2006年の小泉純一郎政権は、PBを黒字化するため、社会保障費を5年間で1.1兆円削減するとぶち上げたが、08年のリーマン危機もあってとん挫した。



一方、安倍首相の提唱するアベノミクスを支持する学者らからは、歳出削減ばかりに目が行き、経済成長をなおざりにし、成長を阻害するデフレの芽を摘まずにきたことが、財政事情を一層悪化させたとの指摘が出ている。


<底流にある2つの主張の対立>


今回の骨太の方針をめぐる政府部内での「論争」は、その延長線上にあった。その結果、「ある種の政治的な妥協が計られた」(先の首相周辺関係者)。

20年度にPB赤字を解消するため、18年度までの集中改革期間に国内総生産(GDP)比の赤字を1%程度にする中間目標を設け、高いハードルとされた歳出の目安も明記した。

同時に実質2%、名目3%超の高い経済成長率を見込み、後発医薬品の普及などの歳出抑制に着実に取り組まなければ、20年度のPB黒字化達成への道筋は描けない。



今後、諮問会議の下に、財政健全化計画の進ちょくを点検するための専門調査会が設置され、社会保障など分野ごとに改革工程表や数値目標を定める。

安倍首相の下で、諮問会議や専門調査会が、この計画をどれだけ軌道に乗せられるのか。実行力が問われるのはこれからだ。

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