【藤井聡】デフレの今こそ大規模な公共事業を

今後の社会資本整備の進め方
~デフレの今こそ大規模な公共事業を~


京都大学大学院教授 藤井聡


社会資本整備と日本経済の動向

 「今後の社会資本整備の進め方」を具体的に考えるにあたっては,日本の財政,ひいてはそれを直接規定する日本のマクロ経済状況を考えることが,何よりも重要だ.なぜなら,もしも今後,日本政府の財政が極めて厳しい状況を続けるのなら,日本のインフラ政策の中で出来うることは維持管理,あるいはせいぜい更新程度のこととなるだろう.一方で,日本経済に活力が漲り,十分な税収も見込めるのなら,維持管理や更新は言うに及ばず,日本の国力を増進させるような高速道路ネットワーク整備や,大型港湾の整備等の公共投資を力強く進めることができる.

 ついては本稿では,「今後の社会資本整備の進め方」を考えるという目途のために,日本経済の動向について,改めて考えることとしたい.


驚くべき凋落を見せた日本経済

 20世紀後半,日本は間違いなく,世界経済を牽引する主要な一流国の一角を占めていた.敗戦時に焦土と化した国土から立ち上がり,高度成長期を経て世界史的にも未曾有の発展を遂げた. 1995年当時には,全世界のGDPの18%もの富を,この狭い国土に住まうたかだか一億数千万人の日本国民がたたき出していた.この水準は,世界一の経済大国アメリカのGDPの実に約7割というものであり,日本の一人当たりのGDPは堂々,世界一位であった.

 しかし,それ以降,日本の経済はデフレ不況から20年近くも抜け出せず,全世界が経済成長を果たしている中で,ただ一国,取り残されることとなってしまった.90年代から現在(2008年現在)にかけての経済成長率は,なんとOECD加盟国中「最下位」という恥ずべき凋落を我が国は世界に晒すことになった.そして,全世界のGDPに占める日本のGDPのシェアは,わずか10数年の間に(18%から)10%も減尐させ,わずか8%にまで落ち込んでしまった.

 その間,アメリカもヨーロッパも全世界に占めるGDPシェアをほとんど変化させてはいない(アメリカ25→23%,ヨーロッパ32%→32%).すなわち,90年代から現在に至るまでの世界経済は「日本の一人負け」の様相を呈していたのである.中国や韓国をはじめとした,かつてのG7加盟国外の国々の経済成長がめざましいと言われているものの(GDPシェアは合計で26%→37%へと11%躍進),それらの国々の地位の向上は,日本が「提供」したも同然なのである.


日本経済の凋落の原因

 なぜ,こんなにも凄まじい水準で我が国の経済は凋落してしまったのか.

 その原因として,「日本企業や日本の社会が特殊だから,グローバル化の流れの中で成長できないのだ,だから,構造改革を進めなければならないのだ」という説や,「尐子高齢化が全ての元凶だ」という説を口にする専門家や執筆家が後を絶たない.しかし,そんな議論は全て,誤謬に満ちた奇説,珍説にしか過ぎない.

 そもそも,驚くほど世間には知られていないが,日本の経済成長は外需依存ではなく,内需主導だったのだ.日本経済の外需依存率は,先進国中最低水準だ.だから日本社会が特殊であろうがなかろうが,グローバル化によって日本経済のGDP シェアが18%から8%へと10%も低下していくなどということはあり得ない.

 そして,日本以外の尐子高齢化に悩む国々も含めて,皆経済成長しているのが事実だ.しかも尐子高齢化になれば,生産者の割合が相対的に減り,消費者の割合が相対的に増えるのだから,(相対的に需要の方が供給よりも多くなるのだから)インフレになるはずだ.だから,尐子化に今のデフレ不況の原因を求めるのは,不条理の極みといって差し支えない.

 だから,現在のデフレ不況の原因は,尐子化や日本企業の特殊性やグローバル化などに求めることなど,どう考えたってできるはずは無い.だとすると,日本における20 年にも及ぶ,世界史的にも類例を見ない長期のデフレ不況の原因は何なのだろうか?

 その答えは,至って簡単である.

 それは,いわゆる「ニューディール政策」,つまり,「大規模な財政出動」を「徹底的」に行わなかったこと,こそが原因なのである.

 そもそも,20 世紀初頭のアメリカの大恐慌の折り,アメリカは深刻なデフレに陥り,期株価はそのピークの1 割の水準にまで落ち込んだ.それにも関わらず,アメリカは,たった4年数ヶ月でそのデフレを終結させている.
なぜ,アメリカはその深刻なデフレ不況を,4 年数ヶ月で乗り切ることができたのか?

 経済史家ならずとも誰もが知っているように,それは,ルーズベルト大統領が,大規模な公共投資を,いわゆる「ニューディール政策」として徹底的に推進したからである.それによって「内需」を拡大し,デフレを食い止め,失業率の上昇を食い止め,潜在的な経済成長力の維持を図ったのである

 それ以後,全ての国々の政治指導者は,デフレ不況を迎えれば,「建設国債等を大量に発行しつつ,内需拡大のための大規模な公共投資を実施すればよい」という,「常識」を学んだのであった.したがって,それ以降,その「常識」のおかげで「デフレ」を経験する国は一切無くなった.

 しかし,不幸にも,世界史的に久方ぶりの「デフレ不況」が起こることとなる.それが,バブル崩壊以降の我が国,日本だったのである.無論,我が国の政府も,バブル経済が崩壊した当初には,上記の「常識」に基づいて,
大量の建設国債を発行しつつ大規模な公共投資を行い,デフレ脱却を図った.しかし,「国民世論」はそれを望まなかったのだ.

 「政府は無駄な公共事業ばかりやってるじゃないか———」,そういう印象が世間を席巻した.そして,その世論の動向を受けて政策を行った橋本内閣は,公共事業を削減してしまった.それ故,未だデフレから完全に脱却してなどいなかった日本経済は,公共投資の下支えが無くなり,一気に冷え込むこととなった.そしてデフレは深刻化し,税収は落ち込み,赤字国債が一気に膨らんだ.その後,小渕内閣が公共投資を拡大し,景気も税収も改善の兆しを見せたものの,小泉内閣が誕生した途端に,世論を踏まえて政治を執り行う小泉首相によって,公共事業はさらに削減されることとなった.そして案の定,景気も財政もさらに悪化することとなった.その後アメリカの住宅バブルのおかげで一時期,輸出主導で景気が回復するものの,リーマンショックのせいでアメリカが不況に陥るや否や,日本の経済も財政も深刻な冷え込みを見せるようになる.

 その後再び,麻生政権が15兆円の補正予算に基づいて公共投資を行ったものの,我が国は,「コンクリートから人へ」を掲げ「事業仕分け」を繰り返す民主党政権によって公共投資が大幅に削減され,我が国の経済はさらなる冷え込みを見せることとなってしまったのである.

 この様に,「世論」が望む「公共投資削減」の声のために,デフレ脱却のための「常識」であった「公共投資」が十分に推進できない,という事態に陥っている間に,我が国だけが経済成長を果たすことができなくなってしまったのである.その一方で,世界中の国々が経済発展を遂げていった.しかもリーマンショック後には,全ての経済主要国が「常識」に基づいて大規模な公共投資を行い,その被害を最小化し,さらなる経済成長を遂げようとしている中で,上述の様に,我が国だけが「コンクリートから人へ」というスローガンの下で,「自殺行為」とも呼ぶべき,公共投資の大幅縮減を図っているのである.
この様な状況で.......,我が国の経済が.......これ以上....凋落しないわけがない...........

 遺憾の極みであるが,これが21世紀初頭に,我が国が置かれている「客観的」な状況なのである.


公共事業が日本を救う

 この様に,我が国には悠長に構えていられる暇いとまなど,残念ながら,どこにもありはしないのである.今,目の前にある,この「デフレ」から脱却するための手だて,すなわち,(将来の経済成長を導き,防災力を高めるような「公共事業」を中心とした)大規模な公共投資を,世界中の国々が常識的に理解し,実際に推進しているように,我が国においても推進すべきなのである.

 もちろん,そのために必要な財政の水準がどの程度なのかを正確に論ずることは難しい.しかし例えば,毎年15兆円の公共事業を中心とした公共投資を,尐なくとも3~5年程度推進することが必要であろう.それでもデフレから脱却できなければさらにその年数や財政出動額を増やすことも必要であろうし,早期にデフレ脱却が出来る兆しが現れたのなら,

 その年数や財政出動額を抑えていくということもできるだろう(なお,紙面の都合上政府の財政破綻問題については割愛するが,一点だけ指摘しておくなら,それが内債であり,かつ日本銀行政策を適切に運用していく限り,政府の破綻はあり得ない.詳しくは拙著1)を参照されたい).
そして何よりも大切なことは,今すぐ求められている「内需」が,インフラ部門には「何十兆円分」もある,という点である.老朽化したインフラの維持管理,更新だけでも,年間5,6兆円は必要であろうし,首都直下型をはじめとする巨大地震に対する防災対策も,数十兆円規模で必要だ.その他,港湾の大型化や高速道路ネットワークの整備,環状線整備など,これまで何度も論じられてきた様な社会資本整備は,いくらでもある———.
もしも,大規模な財政出動に基づいて,今すぐ求められる公共事業を大規模に推進できるのなら,その時初めて,我が国は,深刻なデフレ不況から脱却し,景気が改善し,税収も増えて財政は健全化され,そして,地震や水害,インフラ老朽化といった深刻な諸問題を最小化することができるのである(さらには,内需拡大によって円高が食い止められ,インフラ整備によって尐子化による供給力不足にも対処できることともなるのだ).
しかし———,万一それができなければ,我が国は坂道を転がり落ちていく様に,凋落の一途を辿る他はないのである.

 国民が,そして,我々の子孫達が豊かで幸せに暮らせるようになるために,我が国においてもこうした「世界の常識」に基づく政策運営が実現する近未来を,心から祈念したい.


参考文献
藤井聡:公共事業が日本を救う,文春新書,2010.

http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/images/stories/PDF/Fujii/201006-201012/editorial/infrastructure2010.pdf


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